裏山借景のスマートハウス

ひろしま住まいづくり
コンクール2011広島県建築士会長賞

知らないから、いい

住宅の知識なし、時間も、お金(予算)も限りがある…。そんな私ですが、好みや思いが形になった、素敵な家を建てていただくことができました。その過程を紹介します。人生に1度あるかないかの家造り。何かの参考になれば幸いです。
一番こだわったのは、お風呂場です。とはいえ、これまで実家や一人暮らしの賃貸マンションは、みなユニットバス。こだわりたくても、「何にこだわっていいのかが」分かりませんでした。

本をイチから買って読むのは時間がかかります。知識はネット検索で蓄えました。やってみると、いろいろ出てきます。

と、大まかに分かってきます。そうなると画像を眺めながら、自分が入りたいお風呂のイメージを膨らませていきます。価格も、ネットで大まかな相場が見えてきます。懐具合にあった形態や材料を選んで、設計者さんに相談。その後は修正を積み重ねて完成に至りました。ネットを使うのが難しいようでしたら、まずはイメージを設計者さんに伝えてみてはいかがでしょうか。

私の場合、ずっとUBに入ってきたので、新築は在来にしたいと「漠然と」考えていました。結果的には、在来に対して余計な固定観念がなくて、かえって良かったと言えます。昔の在来浴室を知る親に相談すると「冬場は冷える」「木張りの壁やタイルの目地にカビが生えて手入れが面倒。やめときんさい」の一点張りでした。家が建てば、いまどきの性能の高い建材と、風通しなどに配慮された設計のおかげで、床はそんなに冷えず大きな不便を感じることはありませんでした。
至る所に自分のこだわりをちりばめました。浴槽は鋳物ホーロー、天井などはヒノキ、タイル壁の一部には旅行で目にして気に入っていたポルトガルのタイル「アズレージョ」を使いました。こんな「やりたい放題」な風呂造り、在来工法ならでは。UBより高くつくと身構えていましたが、案外そうでもありませんでした。

住んでしばらくすると目地に多少のカビが生えて、取り除きました。UBで暮らしていた時もカビは生えましたし、浴槽に水垢もつきました。どちらにしても最低限のお掃除はあって当然。だったら、予算や思い入れの度合いにもよりますが、皆さんは出来合いのお風呂と、どっちに入りたいです?

住みやすさを追い求めたら

お風呂には並々ならぬこだわりを込めましたが、「エコ」に関しては、実はそれほどでもありません。身も蓋もなくて恐縮です。

広島県内で産出された木材「県産材」を主要構造部材の60%以上に使い(県から助成金がもらえました)、床はすべて無垢のスギ、壁の一部には塗り壁や土佐和紙、イ草を漉き込んだ和紙も取り入れています。あくまでも「結果的に」です。住みやすさを追い求めたら、そうなったのです。

どんな物にもメリットとデメリットがあります。スギは軟らかいので、子どもが固いおもちゃを投げたら、あっさりへこみます。でも、冬場はスリッパ要らずの暖かさで、とても気に入っています。子どもが汚しそうな部分の壁紙は、水ぶきが容易な樹脂系クロスを使っています。階段は無垢の木より反り返りが少ないとされる集成材(複数の木をくっつけ合わせた素材)で出来ています。

やみくもに「環境にやさしい素材」を寄せ集めたところで、「住む人にやさしくない(不便な)家」になってしまっては、台無しだと思ったからです。我が家に太陽光発電は取り入れていませんが、メリットとデメリットを心得た上で、住むのに必要なもの、取り入れて共感できるものを、予算的にも無理のない範囲で使うのが「自然」だと思いました。

余談ですが、県産材のほかに、前記の浴槽は可部の大和重工さん、システムキッチンは廿日市のウッドワンさんと、良いものを選ぶうちに「地産地消」なお家になりました。

住めば、住むほど…

無い袖は振れないなか、限られた予算での家造り。建築コストの「高い」「安い」が、必ずしも「割高」「割安」に直結しないのが、判断の難しいところでしょうか。

我が家で例えると、スギの床は一般的な合板フローリングよりも「割高」です。しかし、冬場でも子どもがカーペットではなく、スギ床の上を無意識に選んで居眠りするほどの心地よさは、お金に換算できないメリットです。実家の合板床が冬はとっても冷たいため、設計段階ではエアコンに加えて足元を暖めるファンヒーターを置く予定だったのですが、住んでみるとあまりに暖かいので買ってません。ランニングコストはエアコン代だけ。ガスや温水の床暖房設備を埋め込んで使うよりは、割安になりそうです。

家族にも、お招きしたお客様にも好評なのが、全長5メートル余りのゆったりした土間兼玄関です。ベビーカーをとりあえず入れておいたり、たくさんの靴を脱ぎっぱなしにできたり…。注文建築ならではのメリットだと実感しています。そもそも家の形は矩形(正方、または長方形)ではなく、「コの字形」です。壁面積が広くなるため、コストは余分にかかりました。そのかわりに中庭があり、矩形だったら北側の部屋には入らなかっただろう日差しや風が、各部屋にまんべんなく入ります。心地良いのはもちろん、梅雨時のカビ防止にもなり、メンテナンスの負担はおそらく軽減できるはず。維持費や光熱費、お金では計れない快適さ…。見積書の額面だけでは気づかなかった部分が、住んでみて初めて分かりました。うれしい誤算です。

最初からすべて分かって事を進めることは不可能ですが、

そんな「自己投資」の積み重ねで、納得できる家がきっと出来るのではないでしょうか。