アーツ&クラフツ運動は19世紀のイギリスの産業革命による工業化・量産化で物質的な繁栄をもたらしたその歪みとして環境の汚染、都市のスラム化に加え、量産品による精神文化の衰退への危機感から、ジョン=ラスキンやウィリアム=モリス達によって興された伝統的な芸術や職人芸の見直し運動でした。
我が国は第二次世界大戦後に420万戸の住宅不足が生じ、この住宅不足を短期間に解消策として、建築材料の工業化と住宅生産の工業化が推進されてきました。今日、我が国の住宅は工業化のおかげで機能的な材料で便利で、一見綺麗な家が廉価で素早く造られるようになっています。しかしその歪みとして、我国独自の住文化を見失い、住宅寿命も平均30年と短くなっている現実があります。
イギリスの産業革命の歪と我国の住宅・建材などの工業化による歪には、工業量産化による精神文化の衰退という共通性があり、いま我国は「住まいのアーツ&クラフツ」が大切な時代かも知れません。
我国の多くの産業は高度工業化により戦後の経済繁栄を築いているが、人間という生物が棲む住宅まで高度工業化して良かったのか、見直しが必要な時期なのかもしれません。
住生活基本法に定めているように、「地域の自然、歴史、文化といった特性に応じて環境と調和し、誇りと愛着の持てる住環境をつくる」ことがこれからの住まいには最も大切なことと思います。
誇りと愛着の持てる住環境づくりには、地域特性、審美性、手づくりなどのキーワードの家づくり大切でこれが「住まいのアーツ&クラフツ」。家を早く造る経済効果よりも、建築材料をよく吟味し、手間と時間をかける家づくりにより、暮らしの質を高め、長寿命の質の良い住ストックの蓄積の方が大切な時代でしょう。