日本の家は「夏を旨とすべし」
ヨーロッパの寒冷地のようなところでは、冬の夜は長く、暖房期間の長いことから、熱を放出させず、保温力を高めることが家づくりのポイントとなっている。
それにひきかえ、四季の変化が大きく、高温多湿の夏をいかに快適に過ごすかが問われる日本では、保温力を高めることよりも熱の侵入を防ぐこと(遮熱)が断熱材を使用する第一の目的であった。
その典型的な例が、昔ながらの厚いかやぶき屋根を持つ家。束ねた茅(かや)を幾重にも重ねてつくられた屋根は、夏の日射熱の侵入を防ぐ超断熱効果があり、しかもこれには厳しい雨への対応という側面もあった。
通気性に富み、開放的なかやぶき屋根の下では、冬の間暖炉が焚かれ、その煙が天井まで上昇して茅全体をいぶしながら乾燥させ、長持ちをさせる。
また家そのものが木材をふんだんに使い、そこにわらを切り込んだ土をこねて塗った壁は、大量の空気を内包し、すぐれた断熱材となった。
兼好法師が徒然草に書いているように「夏を旨とすべし」の家づくりは、湿気の多い日本の気候風土に合った非常に優れたコンセプトであるが、ヨーロッパ的な意識では日本の家屋は「冬の性能を犠牲にした家」とも考えられた。
このように、ヨーロッパの家づくりとわが国の家づくりは、気候風土の違いに準じて、基本的な発想が違う。
そこを理解しないまま、日本の伝統的なスタイルや文化を手放してしまうことに、私は違和感を感じる。
以前、シアトルのワシントン大学を日本人グループで訪ね、インテリアデザインの講義を受けたことがある。
アメリカの大学で、どのような話が聞けるのかと興味津々だったが、講義のテーマは「日本の庭園と数寄屋建築の美について」だった。
冒頭は「魚には水の存在がわからない」から始まった。
日本を出て日本の価値を教えられたと同時に、建築やインテリアの世界の欧米崇拝の風潮を戒められているような気がした。
今多くの住宅は、欧米の真似ごとのような建物が建ち、全く日本の四季や文化を考えない住宅が立ち並ぶ風景に残念な気持ちがする。
欧米のすばらしいインテリアは見習うべきところだが、日本らしい文化をもう一度大切にしたいと思う。
結果として気候風土にあった日本の住宅は、すばらしい街並みとなり、住みやすく長く愛される住まいとなるのではないだろうか。