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社長BLOG



金堀健一

広島の中心街に建てたペンシルビル

竣工前から、マスコミが取り上げ話題の多かったペンシルビル。

広島の中心地街角に鉛筆を立てたオシャレな小さな建物、鉛筆を立てているのでペンシルビルと思っている人が多いのでは。
 PENCILはProduce/Ecology/Nature/Coodinate/Incentive/Lifeの頭文字を採ったもの。
 内装建材の問屋のオーナーであるクライアントから、「本社跡地に新世紀を睨んだ新しい事業をするために、相応しい建物を建てたい」という設計依頼を受け、要望をもとに若いスタッフがボリューム検討をしている頃、『鉛筆の発想』が生まれた。



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かつてクライアントとはエコロジー問題に取り組んでいた。産業革命以来産業経済が発展する裏に環境汚染が有り、とくに20世紀後半の半世紀、世界経済は米国と日本を中心に大発展を遂げるがその影に地球も人も健康を失いつつあり、新世紀はエコロジーが人々の価値観そして産業経済まで大きな影響を及ぼすものと思われる。


 エコロジーを建物デザインにどう表現すべきか思考を巡らせているとき、エンピツが閃いた。削ったときのあの香しい木のかおり、古典的、知的センス、
ほどほどの不便さ、自然への回帰、美と健康、このイメージだど確信した瞬間だ。


 新世紀の企業はエコロジーのモノとコトを創造(プロデュース)する使命があろう。そしてネーチャー感覚が必須。新会社のコンセプトは『エコロジカルライフスタイルの提唱と街や暮しに刺激を創造して行きたい』。こうして、新社屋のイメージ、ビル名、そして新会社名までペンシルに決まった経緯がある。

■エコロジー建築の仕掛け
fig 設計の構想に着手した頃は産業界や経営者はエコロジーに対して冷ややかであった。『エコロジー活動を推進することは、経済活動にブレーキが掛かる』という認識が支配的であったからである。また、環境に配慮したエコロジカルな建築は建築費が高くつくということも否定出来ないことであったので、コストの問題解決が第一関門であった。
 この問題には、エコロジーの思想、すなわちエコロジー時代の価値観は”簡素”であり、『簡素な美』という概念で解決の糸口をつかんだ。構造躯体をシンプルにすること、無駄な装飾を排除し簡素な美の表現につとめた。


 数年前エコポリスとして注目されているドイツ南西部の都市フライブルグを訪ねた。そのときバウビオロギーと云うものに大変興味を持った。バウビオロギー(建築生物学)というのは一つの建築スタイルで、ドイツで1982年に30名余りの建築家が集まり、建築生物学連盟(BUND ARCHITEKTUR UND BAUBIOLOGIE)を設立し建築生物学運動を展開したのが始まりという。

figフィンランドにスカンセンという大規模な民家があり、北欧の伝統的な民家を時代別に数十棟移築しているが、ここで切妻屋根に雑草を生やした古民家が強く印象に残っており、ドイツでバウビオロギーに出会ったとき温故知新の想いであった。

 ペンシルビルでバウビオロギーを実践したのはこのような体験からだ。これまでの我国の屋上庭園とは全く概念を異にするもので、バウビオロギーは建物と植物の有機的融合であり手入れをしないで、その環境(屋上)で生き残る雑草を生やそうというもの。
 具体的には屋上アスファルト防水の上に妨根シートを施し20cm程度の土(客土)をのせ雑草を生やしている。竣工時、客土にクローバー(白詰草/マメ科の多年草)を蒔き早期の緑化を図った。

 


■微粉炭添加コンクリート打設工法への挑戦
fig 古き時代には重要建築物の床下地中に埋炭をしていたという言い伝えがある。埋炭というのは建築予定地に深さ2~3メートルの穴を掘り、木炭を埋設し、土を埋め戻し、その上に大切な建物を建てるというもの。

 木炭を埋設する効果は、木炭の主要成分は炭素であり、炭素の近傍に負イオン環境を生成するものではなかろうかと推測できる。建築物の躯体コンクリートの中に微粉炭若しくは、炭素成分を添加すれば、建物室内に負イオン環境を生成させることが出来、室内環境の快適性を促進する効果を期待して、ペンシルビルに微粉炭添加コンクリート打設工法を試みた。


 建築物の躯体コンクリートの中に微粉炭を添加するには、コンクリートの強度の確認が必要で、広島工業大学の佐藤立美教授の指導を仰いだ。佐藤立美研究室で各種の強度実験をして頂き、ある一定範囲内の微粉炭の添加であればコンクリート強度に問題はなく、低層ビルであるなら良かろうという実験結果を頂いた。
 新しい試みには乗り越えなければならない幾つものハードルがあり、生コンへの微粉炭の混入は、生コン車が建設現場到着時に、設計管理者が自ら行うという苦労もあった。

 

 

■建築指導課の困惑
 竣工を間近にした頃、ペンシルビルがエコロジー建築ということで新聞紙上に大きく取り上げられた。その一節に「木炭の微粉を練り込んだビル」と紹介され多面的な反響を呼んだ。新しい事へのさまざまの立場からの思惑から、行政当局へ「コンクリートへの微粉炭の混入は混和剤になるのでは?」と詰め寄る者がいた。
 行政当局者から、資料の提出や説明が何度も求められた。判断が出せない当局者は建設省の建築指導課に指示を仰ぎ、今度は、建設省と長距離電話に時間を費やすことになってしまった。
 建設省の若い係官は詳しいことが聴きたいので上京してほしいと言う。放っても於けないので、上京し建設省を訪ね、強度上問題のないこと、炭素成分は細骨材の置き換えであり混和剤ではないことを説明し納得は得るが、鉄筋などへの長期的な影響を考慮して建築評定を取ることを勧められた。
 もう一つのトラブルは、竣工検査で「1階屋上テラスのパラペットの手前に手摺を付けよ」という指示が出た。これを付けなければ竣工検査を下ろさないと。ペンシルビルのオープンは1998年7月7日と決めていたので、従わざるを得なかった。
 1階屋上テラスのパラペットの先には、バウビオロギーの演出と建物のデザイン上から緑化スペースを設けており、転落の危険性はない設計となっているのだが・・・・・。

 

■竣工後2年
fig 建築において新しい試みをすることは、各種の法規制と行政指導との戦いとなることを覚悟しなければならない。安全性や秩序を守るため、建築の法規制は必要であるが、これが建築活動の創造性を阻害する一つの要因になって画一的な町並やデザインになっていることは否めないし、建築コストを押し上げそのツケがクライアントにくることも否定出来ない。
 行政改革と規制緩和の時代、建築の法規制も、もっと緩和すべきと思うし、建築行政も柔軟な対応が必要な時代と思う。生活者(クライアント)も無駄なコストをなくするため、自らの安全は自ら守ることが必要と思う。
 竣工後2年、当初意図したことは、ほぼ良い結果が得られている。シンボルとして鉛筆を建てた事も立地に融合し、効果も期待を上回っているようだ。非常勤講師をしている女子短大で新学期のとき学生に訪ねたところ鉛筆を建てたビルということで認知度は意外に高かった。
 微粉炭添加コンクリートの効果は、コンクリートの消臭、結露防止、室内のマイナスイオン効果など定量化出来ていないが、クライアントからは評価して頂いている。屋上のバウビオロギーも定期的に植物の育成を写真撮りしているが、水やりもしないで放置した屋上の過酷な環境下にもかかわらず常識を脱してクロバーが良く成長している。


建築データ
名  称/PENCILビル
所 在 地/広島市中区袋町7ー21
竣  工/1998年7月7日
用途地域/商業地域
構  造/鉄筋コンクリート造3階建
敷地面積/327.25平方メートル
建築面積/257.92平方メートル
延べ面積/605.94平方メートル
  3階  208.96平方メートル
  2階  178.76平方メートル
  1階  218.23平方メートル
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