木にはいろいろな樹種があり、世界で約2万種、日本には約2,500種あると言われています。
このうち人間が利用している木は世界で数百種、日本では100種あまりと言われ、腐りにくい木、香りのある木などそれぞれ異なる性質を持っています。
「適材適所」という四文字熟語は、伝統的な日本家屋や寺社などの建築現場での木材の使い分けが語源です。
例えば土台には腐りにくく耐久性の高い桧や桧葉・栗を、重量を支える梁には強靭な松を、衣服を湿度から守る箪笥には桐を使う等、古くから日本人は木の性質を知って建物の中で使い分けていたのです。
木には葉の小さい針葉樹(杉や松など)と葉の大きい広葉樹(欅や楢など)があります。
一般的に針葉樹は柔らかく、構造材・建具・和室の仕上材に使われるのに対し、広葉樹は硬く、家具・フローリング・洋室の造作等仕上材に多用されています。
樹種選定の目安にすると良いでしょう。
今回は国産材の中でも住宅でよく使われる樹種の一部を選定し、私の経験や好みを強く織り交ぜて紹介したいと思います。
樹木が真っ直ぐに伸びることから、「すぐ(直)な木」が語源と言われています。
日本で最も多く植林された木で、住宅で最も多く使われています。私が最も好きな木です。
柔らかく、断熱性・吸放湿性に富み、住宅では柱・梁といった構造材や下地材、室内の床・壁・天井から外装・デッキ、桶・樽といったものまでオールマイティーに使える木です。
室内に使うと空気を浄化してくれます。
出典:社団法人大阪府木材連合会「杉の呼吸が暮らしを変える」
最もお勧めはフローリングです。上記に挙げた「フローリングは広葉樹」という基本から外れますが、10年くらい前から柔らかい針葉樹がフローリングに使われることも増えてきました。
何といっても風呂上りの足触りは気持ちいいですね。
神社の材に用いるところから「霊(ひ)の木」が語源と言われています。
杉の次に日本では多い木です。防腐・抗菌効果が高く、香りが強いという特徴があります。
桧が持つαピネンという物質により、がん細胞の増殖が40%抑制されたという研究結果も出ています。(県立静岡がんセンター研究所でのマウス実験)
神社や仏閣を建てるために古くから用いられてきたもので、法隆寺や薬師寺の塔は1300年経った今も維持されています。
木材として耐久性や保存性が世界最高レベルです。
法隆寺
住宅では柱や土台、浴槽、浴室壁、建具、フローリング等に使用されています。
最もお勧めはトイレの床・腰壁です。においの気になる場所や押入れなど環境が悪くなりやすい場所に使うと良いでしょう。
神が木に宿るのを待つところから、「待つ」が語源と言われています。杉や桧と比べ、比重が重く強度に優れているのが特徴です。
かつては杭に使用されていました。現代の住宅では、梁やフローリングに多用されています。樹脂分が多いので、経年変化で美しい味わいを出してくれます。
現在では松くい虫による松枯れが急速に広がっており、全国的に深刻な被害を受けています。よって、地松(国産の松)は貴重品になりつつあります。
お勧めは化粧梁(住宅の完成時に表から見える梁)です。もしかすると近い将来、地松は日本から消え、地松を梁に使った住宅はプレミアが付くかもしれません。
地松の化粧梁
別称「翌桧(あすなろ)」(明日桧になろうという意味)と言われ、桧(ひのき)の代用品としたイメージを持たれていますが、実際は腐朽菌やシロアリに対しては桧より優れていると言われています。
ヒノキチオールという成分を多く含み(ヒノキの約10倍)、抗菌・防虫・防ダニ効果があり、耐久性に優れています。土台や柱・内外装材として広く利用されています。
平泉の中尊寺金色堂は全体の93%に使用されており、800年後(昭和37年)の復元修理に着手した際は腐朽の程度が小さく、ヒバ材の7割以上が再使用されたと言われています。
お勧めはやはり土台です。縁の下の力持ちとして家を長寿命化してくれるでしょう。
身近なものでは、まな板にも適しています。
「けや」は「際立って目立つ」「美しい」といった意味の「けやきし」に由来しています。
硬く、木目(杢:もく)が美しい高級材料です。
杢が特徴的で、最も見分けやすい木の一つで、一目で「ケヤキ」と分かる樹種です。
大きな材は建築材として寺社建築、城建築に使われています。
住宅では、玄関の式台、上框や床の間の床框、大黒柱等、「魅せたい」部位に使われています。
お勧めは大黒柱です。古民家に比べて薄っぺらい印象を持ってしまう現代住宅で、「力強さ」を示すことができるでしょう。
若葉がしなやかなところから、「しなやか」の古語の「ナラナラ」が語源と言われています。
辺材は白色で心材は黄褐色の、硬くて丈夫な樹種です。虎の毛のような斑点模様に見える杢(虎斑杢:とらふもく)が特徴的です。
虎斑杢
フローリング・階段材・造作家具・置家具・ウィスキーの樽として使用されています。
最もお勧めは造作家具です。同じく造作家具でよく使用される櫤(タモ)や塩路(シオジ)と比較しても高級感が溢れます。
硬いので加工が困難であり、乾燥中狂いが出やすいという欠点があります。
使用する場合はしっかり乾燥した材を使用しましょう。
動詞「咲く(さく)」に、接尾語「ら」が付き、名詞なったのが語源と言われています。
薄いピンク掛かった色目の耐久性の高い樹種です。フローリングとして人気がある他、高級家具材や造作材として使われています。一般的に多く流通しているのは樺桜(カバザクラ)で、山桜や水目(ミズメ)もサクラ材として流通しています。
お勧めはフローリングです。広葉樹なので硬く、年輪がやや不明瞭なので、年輪模様が気になる方にはお勧めです。
防腐・防虫効果が高いため、「クスリノキ」が語源と言われています。強い樟脳(しょうのう)という成分の香りが特徴です。この香りに防虫効果があるため、箪笥類などの家具に利用されています。
洋風箪笥などで、扉を開けると樟脳の芳香のすることがあります。
これは内貼りに楠の板を貼って防虫効果を期待しているためです。
広島を代表する世界遺産・厳島神社の大鳥居も楠材です。防腐効果の高さが理解できます。
桧同様、押入れ等の収納やトイレの仕上材にお勧めです。桧よりも独特な香りがして、「くせ」になると思います。
日本は、世界でも稀な、明確な四季のある国です。この四季があることによって美しく、上質な樹木が育つという話をある材木業の方に聞いたことがあります。
上記に挙げた、わずか8種の木だけでもそれぞれ特徴や表情が違います。
適材適所で木を使うと、香りや柔らかさ・安らぎを体感でき、豊かな住まい・暮らしになるでしょう。
夏、靴下やスリッパを家の中で履きたくないですよね。床を杉フローリングに変えるだけで、劇的に心地良さが変わります。リフォームをお考えの方は是非お試し下さい。
長文になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
木の特徴を知って、適材適所で使うことで永く愛される、理想の住まいが実現するのではないでしょうか。